【神がお遊びになる時】
一般的に護法様(ごほうさま)が訛(なま)って「ゴーサマ」と呼ばれ、まちの人に親しまれている護法実。温厚で真面目な人であること、さらに自分の信心や信仰上の義務感から行動する人であることが、護法実になれる条件とされています。
護法祭は「二上山護法祭式行事記」に沿って行われます。まず、護法実は祭式に先立って一週間、両山寺本堂内の護法殿で精進潔斎し、水垢離(みずごり)や両山寺内を巡拝する修行を行います。そして、祭りの日の8月14日。午後9時30分、山伏姿の立螺貝師(りゅうらし)が本堂前で一斉に法螺貝(ほらがい)を立てます。「ぼぉう、ぼぉう」と響き渡る一番螺(いちはんがい)を合図に、参詣人が両山寺に集まり始めます。二番螺につづき、三番螺が立てられると、神燈持、住職、立螺師、大・小太鼓打、腰取、紙手(しで)持、榊葉持、警護の少年たちの行列が「ばらおん、さらおん」の呪文、太鼓、法螺
貝の音とともに護法善神社に向かい、本堂に護法実を迎え入れます。金幣奉安(きんぺいほうあん)が終わると、護法実は着ていた白衣を脱いで、黒の股引と卍字を書いた黒の法被を着て、紙手を頭に被(かぶ)り、半畳の上で結跏趺坐(けっかふざ)し、榊葉を手にします。照明を落とし、境内の松明が灯されると、いよいよ祭りのクライマックス、護法様が「お遊び」になる時間が始まります。
警護の少年たちが「ギャティ、ギャティ」と唱え、太鼓と法螺貝の鳴り響くなか、山伏が護法実に加持を行います。その内、手にした榊葉が小刻みに揺れ始めます。神が護法実に乗り移ったのです。次の瞬間、護法実は両手を大きく広げて飛び上がります。そして、烏のように羽ばたく仕草をしながら、本堂から外に飛び出します。護法実は、本堂前から石の階段、山門前広場と縦横無尽に走り飛びます。護法実が近付くと参詣人からは悲鳴にも似た声が上がり、逃げまどいます。…このように大騒ぎの境内にも、やがて静寂が訪れます。
本堂に走り込んできた護法実に住職が加持を行うと、お遊びが終ります。そして、神の落ちた護法実はもとの白衣を着て、先程と同じ行列を組み、護法善神社に金幣を納めます。その後、一行は本堂に戻り、護法祭はすべて終了します。時は8月15日午前1時頃、神とひとときを過ごした人々は、祭りの余韻が醒めやらぬまま家路につきます。